話を聞くことがケア
私は、人の話を聞くのが好きです。
患者さんの話を聞くことがケアになる、と気付かせてくれた患者さんがいました。
がん専門病院で働いていた時、50代の膵癌の男性患者Aさんを担当していました。
2年目か3年目だった私に、若く積極的に治療など情報収集をされ、病棟に私の指名で下剤の使用方法について相談の電話をかけてくれるAさん。頼りにしてくれているとは感じながらも、少しプレッシャーでもありました。
治療のため何度か入院を繰り返されましたが、効果が乏しくなり治療中止となってしまった入院の時。
準夜勤で最後のラウンドをしていたら、Aさんはまだ起きていました。
何がきっかけで話すことになったのか覚えていないのですが、私はAさんのベッドサイドにしゃがみこんでAさんの仕事の話、奥様との出会いの話を20分位聞いていました。
海外の百貨店で働いていたこと、奥様とは飛行機で出会ったこと。
そろそろ申し送りのために記録を書かないといけないと、退室しようとしたときに
「こういう話ができて嬉しいです。また話をさせてくださいね。」
とAさんは言いました。
先輩に、ラウンドに時間かかっていたけど何かあった?と言われましたが、何かあったわけでもなく話を聞いて遅くなったとは結構言いにくかったんですよね。
病棟に勤務しているナースだったらわかってもらえると思うのですが、準夜勤の夜中のラウンドで患者さんの話を数十分聞くってあまりない…ですよね。
優しい先輩だったので怒られたりはしないのはわかっていても、
ナースコールがなったら後輩である自分が出ないといけないのに、席を外してしまったという気持ちがあったのだと思います。
その後、Aさんは急激に状態が悪化していきました。胸水が溜まり、ドレナージや胸膜癒着術をしても追いつかないくらい。そして、話の続きを聞かないまま病院で最期を迎えました。
なぜ、もっと早いうちからAさんの病気や症状のことだけでなく、彼の人生について話を聞く時間を取らなかったんだろう、なぜ、あの夜勤の続きの話を何よりも優先して時間を取らなかったんだろう。後悔ばかりです。
Aさんのように大事なことに気付かせてくれた患者さんが沢山います。
今は、訪問看護で利用者さんとご家族の人生の歴史を聞かせていただいています。
ライフレビューを意識したコミュニケーション。それはケアの一つでもあるのですが、単純に私は、間近でドラマを見ているようで楽しいのです。