2年間の積み重ねが、最期の時間に繋がる~認知症でがん末期のKさんとの関わり 1 ~
訪問すると、シャキッとした立ち姿で迎えてくれたKさん。淀みない会話で、一見すると認知症には見えません。
Kさんは前立腺癌で骨への転移もあり、内服と注射でホルモン療法をしていました。大きな病院に通っていましたが、急激に体重減少があり終末期の過ごし方を考えるように言われたご家族は、在宅療養を選びました。終末期というには少し早い感じでしたが、認知症のため通院も難しいこともあり、訪問診療と訪問看護が開始になりました。
Kさん自身は、自分が前立腺癌であることを認識していません。痛みもないため、医師から説明を聞いても笑って話しを終わりにしちゃいます。自分は健康なのに何で先生や看護師さんが来るのかわからないなぁ、と1年くらい訪問の度に言っていました。
Kさんとはそれから2年のお付き合いになりました。
Kさんはしっかり者の奥様と二人暮らし。はじめの1年は月に1、2回、状態を見るために訪問していました。痛みもなく、認知症ではありましたが自宅内での生活はできていましたし、もともと散歩をしない方だったので迷子になるようなこともなく、何とも平和な訪問でした。
何をしていたか⁇
本人と奥様と、話しをしていました。
お二人の出会い、二人の趣味である旅行やゴルフの話し、子育てに対する考え、夫婦円満の秘訣…
奥様がKさんを信頼していること、認知症になってもKさんの芯は変わっていない、と奥様が考えていることが伝わってきました。
もちろん薬剤や皮膚トラブルの相談にも乗りましたが、ほとんどはお話して終わりでした。時にはケアマネさんも一緒の時間に来てお話をすることもありました。
奥様は、普段のKさんを知っていてほしいし、何かあった時に医療体制があるというだけで安心なんです、と言ってくださり訪問を続けていました。
1年が経ったころ、少しずつ体重減少が見られました。本人の話しは変わらないけど体重減少や腰痛が見られ、前立腺癌の腫瘍マーカーが上昇したこともあり医師と相談し、奥様と娘さんに病状説明と今出来る治療として、内服薬を追加すること、効果がなければ予後は3カ月くらいの可能性もあるとお話がありました。
ご家族は自宅で過ごしつつ、緩和ケア病棟を受診するなど準備をしていました。
また、今まで家族行事はみんなで外食をしていましたが、これからはみんなに来てもらうことにした、とお子さん達やご兄弟が自宅に来て記念日を過ごすようになりました。
Kさんの家は、なんとなく良い空気が流れているように感じていました。
Kさん、お薬が効いて腫瘍マーカーも一時的に下がり、体重も戻ってきました。それからも奥様は自宅に家族を呼び、みんなで過ごす時間を大事にされていました。いつかは具合が悪くなることを実感したのだと思います。